「100−年齢」で株の比率を決めていい? ── 年齢の目安をどこまで信じるか
「株は100−年齢%」でいい? 年齢で配分を決める目安の出どころ(グレアム・ボーグル)と、Vanguardのグライドパス、Pfau-Kitcesの「上りグライドパス」、Cederburgの全株式論まで。年齢はリスク許容度の代理にすぎない、という理論・論争編。
この記事の楽しみ方
「株は『100−年齢』パーセントにしておけばいい」── 配分(アセットアロケーション)の話になると、よく出てくる目安だ。30歳なら株70%、60歳なら株40%。歳をとるほど株を減らして安全側へ。シンプルで覚えやすいから、入門書でも SNS でもよく見かける。
でも、ここで一度立ち止まりたい。この「100−年齢」、どこまで信じて配分を決めていいんだろう?
先に結論を言うと、年齢ルールは「考えはじめの目安」としては便利。でも、“正解の公式”ではない。プロが使う自動調整のしくみも、学者の議論も、「年齢で一律に株を減らす」を絶対のルールとは見ていないんだ。なぜそう言えるのか、目安の出どころから順番に見ていく。
「100−年齢」はどこから来たのか
まず意外なところから。この「100−年齢」、誰が最初に言い出したのか、実ははっきりしない。「○○が考案した公式」と紹介されることもあるけど、たどっていくと原典が出てこない。昔から使われてきた経験則、というのが正直なところだ。
近いところでよく名前が挙がるのは2人。ひとりは、バリュー投資で有名なベンジャミン・グレアム。著書『賢明なる投資家』(1949年)で「株式は25%を下回らず、75%を超えない範囲で。標準は半分ずつ」と書いている。もうひとりが、インデックス投資の父と呼ばれるジョン・ボーグル。「年齢とだいたい同じ割合を債券に」(20歳なら債券20%、70歳なら債券70%)という言い方をしていた。
ただ、どちらも「100−年齢」そのものの発案者というわけではない。グレアムは年齢を持ち出していないし、ボーグルは晩年、低金利を理由に「100ではなく120で引いたほうがいい」(120−年齢)と見直してもいる。実際この目安は、長寿化や低金利を背景に 100 → 110 → 120 と、上限のほうへ少しずつ引き上げられてきた。
ここで早くも、ひとつ見えてくる。目安の数字そのものが時代とともに動いている。つまり「100−年齢」は、天から降ってきた正解ではなく、後から手直しされ続けてきた”たたき台”なんだ。
なぜ年齢ルールはこんなに人気なのか
それでも年齢ルールが愛されるのには、ちゃんと理由がある。
人は、複雑な計算を避けて、覚えやすくて、すぐ動ける「経験則(ヒューリスティック)」を好む。これは行動経済学で繰り返し確かめられてきた人間の癖だ(少ない情報で素早く判断する fast and frugal な思考の研究などがある)。「自分のリスク許容度を診断して、期待リターンと相関を計算して……」と言われたら、たいていの人は手が止まる。でも「100−年齢でいいよ」なら、その場で一歩が踏み出せる。最初のとっかかりとしては、すごく優秀なんだ。
ただ、ここに裏返しの落とし穴がある。行動経済学には「アンカリング」という有名な話があって、最初に出た数字(アンカー)に、その後の判断が引きずられてしまう。「100−年齢=70%」という数字を一度握ると、本当はもっと考えるべき自分の事情を脇に置いて、その数字で固まってしまいやすい。便利な入口が、そのまま思考の出口になってしまう、ということだね。
そして何より、同じ年齢でも、人の中身はぜんぜん違う。30歳でも、貯金が厚い人と毎月カツカツの人。収入が安定した人と歩合で上下する人。暴落で眠れなくなる人と平気な人。これを全部「30歳だから株70%」でまとめてしまうのが、年齢ルールのいちばんの弱点だ。
プロの「自動運転」は何を狙ってる?
この「年齢で配分を変える」を自動でやってくれるのが、ターゲットデートファンド(目標年に向けて中身が自動で変わるファンド)だ。年をとるにつれて株を減らしていく道筋のことを、飛行機の着陸になぞらえて「グライドパス」と呼ぶ。
たとえば代表的なバンガード(Vanguard)のシリーズだと、若いうち(退職まで25年以上)は株式90%でスタートし、退職時(65歳ごろ)に株式50%、その7年後の72歳ごろに株式30%まで落として着地する設計になっている(バンガード公式・2026年時点で確認できる範囲。途中の年齢ごとの数字はおおまかな目安)。下の図に、この「年齢で株を減らす目安」を、100/110/120−年齢の3本で並べてみた。
ここで大事なのは、このグライドパスの狙いは「リターンを最大にすること」じゃない、という点だ。バンガード自身が、研究のなかで趣旨としてこう説明している ── 株の比率を上げればリターン自体は増えやすい。でも自分たちは、値動き(変動)を抑えて、投資家が途中で投げ出さずに続けられることを優先する、と。
つまり年齢とともに株を減らすのは、「勝つため」というより「心が折れて売ってしまわないため」の設計なんだ。これは大事な視点で、年齢ルールは”いちばん儲かる配分”を教えてくれているわけではない。
ちなみに、プロが必ず年齢で動かすかというと、そうでもない。私たちの年金を運用している GPIF は、国内債券・外国債券・国内株式・外国株式をそれぞれ25%ずつ(=内外の株式で50%)という配分を、年齢に関係なく固定している(2025年4月からの基本ポートフォリオ)。長い目で必要な利回りから逆算して、短期の動きで動かさず長く維持するほうが良い、という考え方だ。「プロ=年齢で減らす」とも限らない、というのは覚えておきたい。
「年齢で減らす」前提が実は論争になっている
ここからが、この記事のいちばん面白いところ。「年を取ったら株を減らす」って、当たり前の常識に見える。でも専門家の世界では、その前提そのものが議論になっている。
ひとつは、リタイア後にむしろ株を「増やす」ほうがいい、という研究。プファウとキッツェスという2人が2014年に出した話で、退職した直後がいちばん危ない(ここで大きな暴落に当たると、減った資産から取り崩すことになって一気に苦しくなる)。だから退職の前後は株を抑えておいて、危ない時期を越えてから少しずつ株を増やしていく ── そのほうが、資産が尽きる確率も、尽きるときの深さも小さくなりうる、という主張だ。年齢で一直線に減らすのとは、逆の発想だね。
下の図は、その「下げる」考え方と「上げる」考え方を並べたイメージだ。
ただし、この「上りグライドパス」には本人たちも認める弱点がある。高齢になってから株を増やすのは、心理的にかなり難しい。理屈では正しくても、80歳で「これから株を増やします」と言われて平気な人は少ない。だから「こうすべき」と言い切れる話ではなく、あくまで「年齢で減らすのが唯一の正解ではない」という問題提起として読むのがいい。
もうひとつ、もっと過激な研究もある。アナークロワ、セダバーグ、オドハティという研究者たちが2023年に出した作業段階の論文(まだ正式な査読を経た掲載は確認できていない)で、「全年齢で株式100%(国内株 約3分の1+海外株 約3分の2)を持ち続けるほうが、年齢で減らすより老後資産が平均で約30%多く残った」という分析だ。39カ国・100年以上の長期データを使っている。
刺激的だけど、これはそのまま真似てはいけない研究だ。理由は2つ。ひとつは、平均では勝っても、最悪のケース(下振れ)はむしろ年齢調整型より悪いこと。もうひとつは、このモデルの中の人は「どんな暴落でも絶対に売らない」前提で動いていること。現実には、4〜5割の暴落に耐えられず売ってしまう人は多い。だから専門家の間でも賛否が大きく割れていて、「お絵描きだ」と切り捨てる声まである。これも「定説をひっくり返そうとする議論がある」という温度で受け取るのが正しい。
ダメ押しでひとつ、現実の話を。「年齢(目標年)が同じなら中身も同じ」と思いがちだけど、そうではない。2008年のリーマンショックのとき、もうすぐ取り崩しという「2010年型」のターゲットデートファンドですら、会社によって株式比率が24%から68%までバラバラで、その年の損失も −4% から −41% まで大差がついた(米上院の報告書による)。同じ名前でも中身は別物だった、というわけだ。当局も「名前(年)じゃなく中身を見なさい」と開示の強化に動いた。
整理すると ── 「年齢で株を減らす」は、常識に見えて、実は定説とは言い切れない。
じゃあ、何で決めるのか
ここまで来ると「年齢ルールはダメなのか」と思うかもしれないけど、そうじゃない。年齢ルールには、ちゃんとした理論の裏付けもある。それが「人的資本」という考え方だ。
人的資本というのは、ざっくり言うとこれから稼ぐ給料の価値のこと。若いうちは、お金(金融資産)はまだ少ないけど、これから何十年も稼ぐ人的資本が巨大にある。そして安定した給料は、毎年ほぼ決まった額が入ってくるという意味で「債券に近い」性質を持っている。だから総資産で見ると、若い人はすでに”債券的なもの”を大量に持っている。その分、手元の金融資産では株を多めに持ってもバランスが取れる、という理屈だ。歳をとると人的資本は減っていくので、金融資産のほうを守りに寄せていく。これが「若いほど株多め」の理論的な根っこ(ファイナンスの研究で2000年代に整理されてきた話)になる。
でも、ここがポイント。この理論が本当に言っているのは「年齢で決めろ」ではない。「自分の人的資本が”株っぽいか債券っぽいか”で決めろ」なんだ。
たとえば、給料が景気や株価に強く連動する人(歩合の比率が高い、自社株をたくさん持っている、景気に敏感な業界にいる)は、人的資本そのものが”株っぽい”。すると同じ理論から、「そういう人は、若くても金融資産では株を抑えるべき」という、年齢ルールとは逆の答えが出てくる。年齢は、あくまで「人的資本がどれだけ大きいか」をざっくり言い換えた代理(プロキシ)にすぎない。だから年齢だけで配分が決まるわけがないんだ。
結局のところ、配分は年齢ひとつじゃなくて、ざっくり次の3つで決まる。
| 見るもの | ひとことで言うと | 年齢以外の中身 |
|---|---|---|
| 耐えられる家計か | 損に家計が耐えられる余力 | 資産額・収入の安定・使うまでの時間 |
| 耐えられる心か | 暴落で売らずにいられるか | 経験・性格・どこまで眠れるか |
| そもそも要るか | どれだけ増やす必要があるか | 目標額と、いま足りているか |
年齢が便利なのは、この3つにゆるく効いてくる入口だからだ。逆に言えば、年齢で出した数字は、この3つで微調整して、はじめて自分の数字になる。「暴落で売りたくなる」のは心(2番目)の問題で、これは設計でかなり防げる、という別の話もある。
→ 株価下落で売りたくなった ── 設計しておけば判断しないで済む
まとめ ── 年齢は出発点、公式じゃない
長くなったので整理しよう。
- 「100−年齢」は 誰が作ったかも定かでない古い目安。数字自体が100→120と動いてきた
- プロのグライドパスの狙いは 「儲け最大」ではなく「途中で投げ出さないため」。GPIF のように年齢で動かさない設計もある
- 「年を取ったら株を減らす」前提は、専門家の間でも論争中(退職後に増やす説・全株式説・同じ目標年でも中身バラバラ)
- 年齢が効くのは 人的資本・時間・心の余裕をざっくり束ねた代理だから。本当は3つ(家計・心・必要性)で決まる
年齢ルールは、配分を考えはじめる「とっかかり」としては優秀だ。でも、それを自分の事情(資産・収入の安定・暴落への耐性)で微調整して、はじめて意味のある数字になる。「100−年齢」を答えだと思って握りしめるより、「これはたたき台」と知って使うほうが、ずっと役に立つ。
数字をひとつ覚えて安心するより、「自分の場合はどうか」を一度通してみる ── それが、いちばんの近道なんだ(※この記事は配分の考え方を整理したもので、特定の比率を勧めるものではないよ)。
もっと深く知りたくなったら
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