4%ルールはそのまま使える?──取り崩しの「率」を日本の家計で考える
「資産の4%なら一生もつ」で有名な4%ルール。Bengen/Trinityの正体と必要資産=年間支出×25倍、そして日本でそのまま使えない4つの理由(年金・税・為替・低金利)。日本の家計は年金で埋まらない差額から考える、という話。
この記事の楽しみ方
「資産の4%ずつ取り崩せば、一生お金が尽きない」── 投資の話を追ってると、どこかで必ず出会う「4%ルール」。SNS でもよく見るし、FIRE(早期リタイア)の文脈で語られることも多い。
でも、ここで一度立ち止まりたい。それ、日本の家計でもそのまま4%でいいの?
先に結論を言うと、4%ルールは「考え方の出発点」としてはすごく便利。でも、そのまま日本に持ち込むと、ちょっと話が違ってくる。なぜそう言えるのか、まずは4%ルールの正体から順番に見ていく。
4%ルールの正体
4%ルールのもとになったのは、米国の2つの研究だ。
ひとつは、ファイナンシャルプランナーのウィリアム・ベンゲンが1994年に出した論文。もうひとつが、1998年にトリニティ大学の3人の教授が発表した、通称「トリニティ・スタディ」。
中身をざっくり言うと、こういうこと。
たとえば資産が3,000万円なら、初年度は4%=120万円を使う。翌年は、その120万円を物価上昇のぶんだけ増やした額を使う。これを続けても、過去のデータでは30年で資産が尽きにくかった ── それが4%ルールの主張だ。
どのくらい尽きにくいかというと、よく「95%前後の確率で30年もった」と言われる(※元データの細かい数字には諸説あって、ここでは「かなり高い確率」くらいに捉えておけば十分)。
ただし、ここに大事な前提がある。
- 株式を50〜75%くらい持つ前提(値動きの小さい資産だけだと、逆に持たない)
- あくまで 米国の過去のリターンとインフレ で計算したもの
- 税金や手数料は考えていない
この「前提」が、あとで効いてくる。
便利な裏返し ── 必要なのは「年間支出×25倍」
4%ルールには、便利な言い換えがある。4%の逆数は25(100÷4)だから、こうなる。
つまり、年間300万円で暮らすなら、その25倍=7,500万円あれば、4%ルール的には回る計算になる。下の図に、生活費別の早見を整理した。
「自分はいくら必要か」を、ざっくり掴むのに便利な数字だ。ただ、これも「税金や年金を考えない、米国前提の目安」だということは忘れないでおきたい。
日本でそのまま使えない4つの理由
ここからが本題。4%ルールを日本の家計にそのまま当てはめると、ズレが出る。理由は大きく4つ。
① 公的年金がある
いちばん大きいのがこれ。米国の FIRE 文脈で語られる4%ルールは、基本「取り崩しだけで生活費の全額をまかなう」前提のことが多い。
でも日本の多くの人は、老後に公的年金が入る。つまり生活費の全額を資産から取り崩す必要はなくて、年金で足りない分(差額)だけを資産で補えばいい。出発点の前提が、そもそも違うんだ。下の図のイメージ。
② 税金 ── NISAと特定口座で手取りが変わる
4%ルールは「税金を考えない」前提。でも日本では、特定口座(課税口座)で売って出た利益には 約20%(正確には20.315%)の税金がかかる。一方、NISA の中の利益は非課税だ。
同じ「4%取り崩す」でも、どの口座から崩すかで手取りが変わる。だから日本では、税金まで含めて考える必要がある。この「崩す順番」の話は、別にまとめてある。
③ 円建て・為替
オルカンや S&P500 など、海外の資産で運用してる場合、取り崩すときに円高が進んでいると、円に戻したときの金額が目減りすることがある。ドルで使う前提の米国の4%ルールには無い、円で暮らす人ならではの揺らぎだね。
④ 低金利・インフレ環境の違い
4%ルールは、米国の過去(株も債券もそれなりに利回りがあった時代を含む)のデータで計算されたもの。日本の金利・インフレ環境は、それと同じじゃない。前提の環境が違えば、当てはまり方も変わってくる。
じゃあ日本ではどう考える?
4つの理由をまとめると、日本の取り崩しは 「年金で埋まらない差額」を、資産でどう補うかという問いになる。
ここで思い出したいのが、2019年に金融庁の報告書がきっかけで話題になった「老後2,000万円問題」。あれは、高齢の無職夫婦世帯で 毎月およそ5万円が不足し、30年で約2,000万円足りない という試算だった。
これは「資産の4%を引く」話ではなく、「年金で足りない定額の不足分を、資産から取り崩していく」話だ。日本の家計に近いのは、実はこっちの考え方なんだよね(※2,000万円という金額自体は前提しだいで大きく変わるので、あくまで一つの試算として。4%ルールと直接むすびつけるのは”考え方の対比”として読んでほしい)。
→ 資産寿命って何?
そもそも「率」は1つじゃない
最後に、もう一段だけ。4%という数字そのものも、実は固定の正解じゃない。
4%ルールは「毎年だいたい同じ”金額”を引く(定額法)」やり方の一種。崩し方には、ほかにもこんな型がある。
| 型 | 中身 | 向き・性格 |
|---|---|---|
| 定額 | 毎年ほぼ同じ金額を引く(4%ルールはこれ) | 生活費が読める |
| 定率 | 毎年「残高の◯%」を引く | 暴落時は自動で引く額が減り、長持ちしやすい |
| ガードレール | 普段は多めに、相場が悪い年は引く額を減らす | 両者の中間 |
しかも、「安全な率」そのものも、専門家のあいだで見方が割れてる。近年の調査では「3.7〜3.9%くらいが安全」とするものもあれば、4%ルールの生みの親ベンゲン本人が2024年に「条件しだいでは4.7%まで上げてもいい」と見直してもいる。
つまり”正解の率”は、ざっくり3.7〜4.7%くらいの幅で、今もずっと議論されてる。「4%」という1つの数字を信じ込むより、「率には幅がある・自分の前提で変わる」と知っておくほうが、ずっと役に立つ。
まとめ ── 4%は答えじゃなく出発点
整理しよう。
- 4%ルールは「初年度に資産の4%→以降は物価調整」。必要資産はざっくり 年間支出 × 25倍
- ただし 米国前提・税と年金を考えない目安。日本ではそのままは使えない
- 日本は 年金で埋まらない差額を資産で補う 発想で考える
- 「率」は定額/定率/ガードレールがあり、安全な率も 3.7〜4.7%の幅 で議論されてる
4%ルールは、出口を考える「とっかかり」としては最高だ。でも、それを 自分の数字(年間いくら使うか・年金がいくら入りそうか)に置き換えて、はじめて意味のある数字になる。
数字を1つ覚えて安心するより、「自分の場合はどうか」を一度通してみるのが、いちばん早いんだ。
もっと深く知りたくなったら
- 取り崩しって何から始める? ── 崩す順番の入門
- 資産寿命って何? ── お金が「何年もつか」の考え方
- 取り崩しって何? ── 言葉の意味だけサッと
- 45 歳からの出口戦略 ── 15 年かけて滑空する ── 「いつ株を減らすか」の実行編